タイヤ産業の変遷

我が国の自動車タイヤ産業の生産規模は、1990年代後半から2008年にかけて概ね堅調な国内需要や好調な輸出向けに支えられ順調な増加傾向を示していましたが、世界的な経済危機により、2009年は大きく落ち込みました。2010年は一定の回復があったものの、その後、生産体制のグローバル化が進むなど、緩やかな減少傾向をたどっていました。2017年からは3年連続で前年を上回りましたが、2020年は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が世界中に拡大した影響により、前年を大きく下回りました。2022年はゴム量ベースで100万トン、タイヤ本数1億3,245万本とどちらも前年を下回り、COVID-19拡大前の水準には戻っていません。

国内ゴム産業の約8割(新ゴム量)を占めるタイヤ産業は、年代別に見ると次のように推移しています。

1940年代〜50年代

第二次大戦後の製造設備の壊滅状態から再建したタイヤ産業は、戦中戦後の長期にわたる統制時代を経て、その後の朝鮮動乱による特需景気に支えられ生産は軌道化しましたが、朝鮮動乱の終結から国内景気はデフレに陥り、タイヤ産業も需要の激減と市場の混乱を招きました。

1960年代

1960年前後の本格的モータリゼーションの進展に伴う自動車の増加や、高速道路の出現等から、タイヤの需要は増大し、設備の拡張・自動化及び原材料の転換等の技術革新を経験し、高度成長期を迎えました。 

1970年代

1970年以降、第一次石油危機により需要は一時的に減退しましたが、輸出主導による日本経済の伸長、自動車生産台数並びに保有台数の増加、製品の多様化による需要喚起により生産は増加しました。 

1980年代

1979年の第二次石油危機以降、世界的同時不況のもとで高成長から低成長へ移行し、加えてラジアル化の進行に伴う需要減退を招き、自動車タイヤ産業の生産実績は極めて厳しい状況下でありましたが、83年より国内景気の回復上昇、世界主要各国の経済の好転等を反映し、回復基調に転じました。また、85年9月以降の急速な円高不況による需要の落ち込みがみられたものの、86年12月以降日本経済は、堅調な個人消費と設備投資を軸とする内需を背景とした着実な成長を示し、89年には生産ゴム量は100万トンの大台に達しました。

1990年代

バブル崩壊とともに日本経済は、株価の暴落、企業収益の悪化、雇用不安、設備投資や個人消費の低迷、不良債権処理、金融証券不安、円高、消費税率の上昇や医療費負担額の増大等々により、失われた10年と言われる一進一退の状況でありました。 一方、海外においては97年後半の東南アジア通貨危機に端を発した経済不安が見られたものの、90年代中頃から好調な米国経済に支えられ世界経済は総じて堅調でした。また、我が国のタイヤ産業においては、スパイクタイヤからスタッドレスタイヤへの転換による特需及びその反動減により93年に生産ゴム量は100万トン割れとなりましたが、概ね順調に増加し99年には113万トンの生産量に達しました。

2000年代

日本経済は、緩やかながら回復基調を辿り、原材料価格高止まり等の問題を抱えつつも企業収益の改善、設備投資の増加により戦後最大の景気拡大を続けていました。世界経済も、2007年までは好調な米国・欧州経済や中近東・BRICs諸国に支えられ総じて堅調に推移し、タイヤ生産ゴム量についても2002年以降毎年過去最高を更新、2007年には136万トンに達しました。 しかし、2008年9月以降の世界的に深刻な経済危機により、2008年は7年振りに減少に転じ、2009年は過去最大の36万トンの減少となり15年振りに100万トンを下回る99万トンまで落ち込みました。

2010年代

経済対策等に支えられ回復した日本経済でありましたが、2011年は東日本大震災や記録的な円高の影響により停滞しました。2013年以降は株高・円安を背景に総じて緩やかな回復基調が続いていましたが、2018年以降の世界経済減速等の影響により、2019年はマイナス成長となりました。世界経済も金融危機から総じて立ち直り、安定成長が続く米国や2013年後半からプラス成長へ転じた欧州に加え、新興国も資源価格の回復等により概ね堅調に推移していましたが、2018年半ばから、多くの国・地域への成長鈍化の広がりが見られました。日本のタイヤ生産ゴム量は、輸出の減少により、2010年の120万トンから2019年には107万トンまで減少しました。

2020年〜22年

日本経済はCOVID-19の影響により、2020年は1年を通して低調に推移しました。2021年以降はワクチン接種の広まりや行動制限の緩和によりプラス成長へ転じましたが、世界的な供給網の混乱や物価高等から、緩やかな成長にとどまりました。世界経済もCOVID-19の影響を受け、2020年は多くの国・地域でマイナス成長となりました。2021年以降は経済活動の正常化が進み回復傾向が続きましたが、原材料価格やエネルギーコストの高騰が重荷となりました。このような需要環境下、2022年の日本のタイヤ生産ゴム量は国内向け出荷、輸出向け出荷ともにほぼ前年並みに留まり、COVID-19拡大前の2019年には届きませんでした。